割れた卵




〜お手手つないで 野道を行けば
皆可愛い 小鳥になって
歌を唄えば 靴が鳴る〜


靴を脱いで お歌を唄えば
みんな鋭い 口ばし曲がって
つないだお手手に鈎爪が


「知らない人についていってはいけません
ひどいいたずらをされて 首をしめられて
体をばらばらにされて 焼かれてしまうのよ」
母に言われて見た テレビの中の今田勇子は
ぼんやり眼鏡でネズミ人間に指をさしていた。

私達はいつまでもいつまでも雛鳥で。
いつも猛禽類の手におびえなければならないと思っていた頃。

「首を切った犯人、子供なんちゃうんかいなー」
と、死期寸前、呆けかけた祖母はワイドショーからヘリコプターの音を聞いていた。
彼らは野菜を 切っては 切っては 切っては 切っては
伸びかけた爪のむずがゆさに耐えていたのか。

不意に生えたバタフライナイフで先生を刺した彼。
便所に落書きをして黒ずんだ爪でバスを走らせた彼。


殻が割れた。産毛が抜けた。
黄色い口ばしがぐるりと歪んだ。

羽根は硬く。爪は長く。
眼は夜を行き、素早く飛んでは餌を食む。


彼と2人だけの世界が作りたくて
親に牙を剥いたゴシックロリータの彼女。

傷つけられた相手は小さな対象。
迷わず彼が爪を向けたのは、教室の中。


私もいつか生えるのですか?
私もいつか伸びるのですか?
私もいつか尖るのですか?
私もいつか・・・
いつか・・・
いつか・・・
人を・・・

殺してしまうのでしょうか。
そういえば、さっきから
糸切り歯と、スカルプネイルできらきらにした爪の根元がむずむずと痒いのです。



*『靴が鳴る』 作詞:清水 かつら 作曲:弘田 龍太郎



index